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大沢の家

周辺には自然が豊かな、程よい郊外の住宅地に建つ住宅の改修計画である。

敷地は道路から40段ほど階段を上がった先にあり、そこには全体を蔦で覆われた築45年の木造家屋が長らく空き家の状態で佇んでいた。居間であったと思われる空間には天窓やステンレス製の大きなサッシが設けられており、外部空間との繋がりの強さを感じた。老朽化は進行しているが、木の温かみを感じる製作建具が随所で使われていたりと以前の居住者の家への愛着を感じられる住宅であった。

蔦の雰囲気も相まって、「このまま住んでしまって良いのでは!」と内見の際に感じ、設計に取り掛かった当初は外部の蔦をそのまま活かし、内装を暮らしに合わせて改修できればと思っていたものの、調査をしていくと蔦は建物内部にも張り巡っておりとてもこのままでは快適に暮らせないと判断、蔦の撤去と蔦により傷んでいた外壁と屋根の更新も工事対象に加えて調整をしていった。

​設計内容はクライアントのおおらかな雰囲気が住まいにも現れてくるようなイメージで進めていき、既存と同様に自然豊かな外部環境との繋がりも大切にしながらまとめていった。具体的には、細かく区切らずに極力一続きの大きな空間になるようにレイアウトし、行き止まりのない空間とすることで回遊性も生み出し、シーンが連続して切り替わっていくことで空間に奥行きを感じられるようにした。

また、今回の計画では作り込み過ぎずにクライアントが自由に住みこなしていく余地を作ることも意識し、ディテールも複雑にせず、造作家具も最小限でまとめた。大きくシンプルな多目的なスペースを用意しておき、暮らしに合わせてカスタマイズしていくような暮らし方を期待してのことである。

さて、木造住宅の改修工事の際に頭を悩ますのが、既存柱の処理の仕方である。

既存の間取りと大きく変更のない場合にはさほど問題にはならないが、今回のように、元々細かく諸室に分けられていた空間を一続きの空間に改修する場合はどうしても既存の柱が空間の中央や新たな間取りに影響を及ぼす位置に出てきたりする。規模や改修内容にもよるが、改修工事の際は極力構造設計者の協力を得るようにしており、新たな計画案における柱・梁の補強の必要性や撤去の可能性も探るようにしている。

今回も大きな荷重を受けている柱が点在しており、その柱の処理に悩まされた。

何度か案を更新している時にふと点在している柱を覆うように円形を描いてみるとすっぽりと納まりそうな気がしたので、CADで正確に作図してみると半径1500mmの正円により既存柱を処理できた。

この円形の壁により、多目的なスペースと玄関ホールとを緩やかに区切ることが可能になっただけでなく、円の裏側をシューズクロークにすることで求められた機能もしっかりと解決することができ、さらにはこの壁が家の特徴として意匠にも影響を与えて独特の空気感を生み出せたと思う。

また、今回は部分的に間引いた既存柱を再利用する形で大工さんにダイニングテーブルを製作してもらった。100mm角程度の柱を8本連結し、両側からボルトで縫うだけのシンプルな構成である。元々あった素材を再利用し、廃棄物を減らしながら生活に必要な家具まで作ることは、今後の改修工事でも積極的に考えていきたい。

2階は既存の間取りと大きく変更はなく、プライベートスペースとして最大限面積を確保できるよう合理的にまとめた。

過剰なスペックは求めていないクライアントの人柄に応答するように、風通しの良い、自然を身近に感じられる伸びやかな空間が作れたと思う。

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所在地   東京都三鷹市

完成    2023年

構造/用途  木造/戸建住宅

工事種別  改修

床面積   118.71㎡

設計    秋山槙之介建築事務所

​施工    田工房

写真    秋山槙之介

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